名古屋高等裁判所金沢支部 昭和39年(ネ)88号 判決 1967年3月29日
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一、当事者の申立
一、控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、
二、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。」旨の判決を求めた。
第二、当事者の主張
左記のほかは、すべて原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一、控訴人の主張
(一) 原判決事実摘示第三、被告の答弁及び抗弁中三項の主張(原判決三枚目裏六行目の初めから八行目の終りまで、)を撤回し、
(二) 同四項の主張(原判決三枚目裏九行目の初めから一二行目の終りまで)を次のとおり補正する。
被控訴人主張の本件1の約束手形(原判決事実摘示の原告の請求原因一、の1の約束手形、以下2から4までの約束手形も同じ。)は、別紙目録(一)の約束手形に、本件2の約束手形は、同目録(二)の約束手形に、それぞれ書替えられ、また本件3の約束手形は、同目録(三)の約束手形を、本件4の約束手形は、同目録(四)の約束手形を、それぞれ書替えたものであるが、右(一)ないし(四)の約束手形は、いずれも支払済みであるから、被控訴人の本訴手形金の請求は、失当である。
二、被控訴人の主張
(一) 控訴人の前項(二)の主張事実中、別紙目録(三)、(四)の各約束手形金が、右手形金請求の認容判決の結果控訴人から支払われたことならびに同目録(一)、(二)の各約束手形が手残り手形であることは認めるが、その余の事実は、すべて否認する。
第三、証拠関係(省略)
理由
一、控訴人が、訴外三浦咲夫に対し、被控訴人主張の本件四通の約束手形を振出したことは、当事者間に争いがない。
二、そこで、被控訴人の主張する右訴外人の本件各約束手形の裏書の真、否について検討するわけであるが、
(一) 控訴人は、原審における昭和三九年四月八日の第二回口頭弁論期日において、右裏書事実を自白し、その後右自白は、真実に反し、且つ錯誤に基くものとして、これを取消しているので、まず右自白取消の適否について判断するに、
甲第一号証の一ないし四、当審証人三浦みのり(第一、二回)の証言、原審及び当審における控訴人(但し当審は第一、三回)、当審における被控訴人(第二、三回、但し後記措信しない部分を除く、)各本人尋問の結果ならびに本件弁論の全趣旨を総合すれば、本件四通の約束手形である甲第一号証の一ないし四になされている三浦咲夫名義の各裏書記載は、いずれも右三浦咲夫がこれを記載、押印したものではなく、同人以外の者によつて記名、押印されたものであることが明らかであるのみならず、また右名下の印影も、これが三浦咲夫の印章によつたものと認めるに足る確証もない。もつとも被控訴人の当審における第三回本人尋問の結果中には、右印影は、当時被控訴人が三浦咲夫から預つていた同人の印章によつたものと思われるかの如き供述をしているけれども、これは、前掲の各証拠に比照し、また原審及び当審における被控訴人の本件手形の裏書関係の供述が、動揺、矛盾している等弁論の全趣旨に鑑みて、たやすく信用することはできないし、他に上記認定を覆えすに足る確証はない。
そして上記の事実関係からみれば、他に前掲の甲第一号証の一ないし四の三浦咲夫名義の各裏書記載が、同名下の印影の顕出も含めて、右名義人の意思に基いたものであることを認めるに足る確証のない本訴においては、本件各約束手形に対する三浦咲夫の裏書は存在しなかつたものと認めるを相当とし、また右認定事実に前掲の各証拠、就中原審における控訴本人尋問の結果及び本件弁論の全趣旨を合せて考えれば、控訴人の本件自白が錯誤に基いたものであることもこれを窺い知ることができるから、結局控訴人の本件自白は、真実に反し、錯誤に基いたものとして、その取消は有効と言うべきである。
(二) しかして、控訴人の本件自白の取消が適法であること右説示の如くである以上、同時にまた本件各約束手形に対する三浦咲夫の裏書は存在しなかつたものと認めざるを得ないことも、上記説示理由から明らかなところと言わなければならない。
三、果して以上の次第であつてみれば、三浦咲夫の裏書譲渡によつて、本件各約束手形の適法な所持人になつたことを前提とする被控訴人の本訴請求は、その余の判断に及ぶまでもなく失当たるを免れない。
よつて右理由なき被控訴人の本訴請求を認容した原判決また失当であるから、民事訴訟法第三八六条によつてこれを取消し、被控訴人の本訴請求は、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、同法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
別紙
目録
(一) 額面金四〇、〇〇〇円、支払期日昭和三七年五月二六日、支払地、振出地共金沢市、支払場所富山相互銀行金沢支店、振出日白地、振出人控訴人、受取人三浦咲夫、第一裏書人三浦咲夫、
(二) 額面金一〇〇、〇〇〇円、支払期日昭和三七年六月二日、その他の要件(一)に同じ、
(三) 額面金一〇〇、〇〇〇円、支払期日昭和三七年五月一七日、振出日同年四月一八日、その他の要件(一)に同じ、
(四) 額面金八〇、〇〇〇円、支払期日昭和三七年四月三〇日、振出日同年三月二九日、その他の要件(一)に同じ、